日本の美しい布
西陣織の老舗「細尾」では、2019年9月、織物をメディアとして日本の歴史、文化、そして未来について発信するHOSOO GALLERYをオープンいたしました。
そのオープニングとして開催した展覧会「 THE STORY OF JAPANESE TEXTILES『日本の美しい布』」では、「細尾」12代目の細尾真孝氏が日本国内33箇所の産地を訪ね歩き、古くから伝わる布の技巧や美しさを独自の視点で記録したドキュメンテーションを、布のコレクションと映像作品によって構成し、展示しました。
布のコレクション
2015年から4年の歳月をかけて細尾が訪ねた「越後上布」「黄八丈」「京友禅」「大島紬」など33箇所の産地に焦点を当てました。
熟練の職人たちの手によって幾重の工程を経て織り上げられた至高の布から、長い年月をかけて人々の暮らしの中で育まれてきた布など、布の原点に焦点を当てた多種多様な物語を、実物の布のコレクションと制作工程のスライド写真を通して紹介しました。
また布の鑑賞の手引きとして、各染織の特徴と深い関わりを持つ素材や道具の展示を行いました。
映像インスタレーション
高谷史郎ディレクションによる映像作品では、20,000点を超える記録の中から厳選された写真を、幅180㎝の織機の糸に投影。布が織り上げられる様子を再現しつつ、色彩やパターンに分解・構築し直すことで、布の新たな様相を表現したインスタレーションを公開いたしました。
美しい日本の布
西陣織「細尾」
「細尾」は元禄元年(1688年)、本願寺より「細尾」の苗字を受け、京都・西陣において創業しました。西陣とは京都の旧市街に位置する地域の呼称で、その地域で生産される先染の織物が「西陣織」と呼ばれます。
京都会議では、市内がライトアップされ着物姿の女性たちがより美しく輝いていました…
1200年以上に渡り類稀なる職人技を継承
「西陣織」は京都で約1200年前より、貴族や武士階級、さらには裕福な町人達の支持を受けながら、育まれてきました。完成までに必要な20以上もの工程それぞれを一人の職人が担当するという高度な分業によって、圧倒的な美を追求し、類稀なる職人技を継承してきました。
「細尾」は西陣の織屋としての歴史を重ねる一方、1923年、9代目当主・細尾徳次郎によって帯・きものの卸売業を始めました。全国の産地を巡り、日本に受け継がれる染織のすばらしさや、真摯に染織を続けている職人たちのものづくりのこころを人々に届けることを目指しています。
以来、織屋と問屋の両輪で事業を営んできました。世界に誇る「西陣織」の高い技術と芸術性を掲げ、その可能性を深め広げること、また、きもの問屋として日本各地の伝統的染織文化を紹介し、きもの文化を未来につなげていくこと、この二つを使命としています。
More than Textile
西陣織の無限の可能性
豊かな質を持った物を生み出す。そのために「細尾」が重視しているのが、異なる専門性を持った職人達、技術者達による協業です。完成までに必要な20以上もの工程それぞれを一人の職人が担当する、「西陣織」の高度な分業を、より現代的な形で展開しています。
2010年には、世界のテキスタイルの標準幅である150cm幅の「西陣織」を織ることができる織機を独自に開発し、以来、世界のマーケットに向けて革新的なテキスタイルを提供してきました。インテリア、ファッション、アート、サイエンス、テクノロジーなど、きものや帯を超えた様々な分野との協業によって、新しい物づくり=価値づくりへと取り組んでいます。
Kimono Heritage
きもの文化の継承
「細尾」は、「西陣織」の技術を時代を越えてつなぐだけでなく、日本各地で営まれている染織の間のつながりを把握し、多くの人に伝えてゆきたいと考えています。
北海道から沖縄まで、その土地ならではの歴史や風土が育む染織文化を取材、記録し、これまでに撮影した写真は、2万点にもおよびます。このような活動を通じて収集した全国の染織文化の情報を、ギャラリーでの展覧会などを通じて、広く社会に発信しています。
また「細尾」が問屋として中心的に扱っているのは、重要無形文化財保持者、通称「人間国宝」の作品です。まさに国の宝というべき技と、妥協を許さない美への探究心から生み出される作品の数々は、私たちに感動を与え、生活を豊かに彩ってくれます。最上級のきものの紹介と販売を通じて、きもの文化の豊かさを、実感とともに伝えることができると考えています。
全国のきもの・染織について「細尾」が情報発信を行う目的は、それぞれの土地に息づく工芸の精神に光を当てることで、これまで見落とされてきた、染織文化の水平的なつながりを可視化することです。それを多くの人と共有し、次世代へと継承していくことで、未来の工芸を醸成することを意図しています。
Philosophy
工芸が時代をつなぐ
細部のテクスチャーや触感を通じて、物は生活を彩り、人に働きかけ、情操を豊かにします。美しいきものを身につけると気持ちが晴れやかになるように、実用的な機能を持ちながらも、それだけにとどまらない精神的な力が、工芸には秘められています。
ウイリアム・モリスらによるレッドハウスのインテリアデザイン(1860年、ロンドン郊外)
ファブリックや壁紙は現在も販売されている。
しかし工芸は、規格化された製品の大量生産、大量消費を伴なう20世紀型の資本主義社会では、手間のかかる古い技術として、弱い立場に置かれてきました。 従来の社会の仕組みが行き詰まっている今、「細尾」は、工芸の力に立ち返り、物の質を通じて、人間生活の基盤を再構築してゆきたいと考えています。
工芸によって、時代を越えて人の生を支え、過去、現在、未来をつないでゆく。それが「細尾」の哲学です。
HOSOO RESIDENCE
「HOSOO RESIDENCE」は、2017年より完全会員制として運営する宿泊施設です。京都の旧市街である御所南エリアの、閑静な路地奥に佇んでいます。建物は、戦前から残る京町家をフルリノベーションしたもので、外観は伝統的な町家の意匠を遵守、内装は西陣織や伝統的な左官技術による土壁で現代的に仕上げられた、贅沢な工芸建築です。
古来から連なる美しい陰影の伝統を宿しながら、滞在者をやさしく包み込むような空間は、「HOSOO RESIDENCE」のためだけに作られたインテリアや、厳選されたプロダクトで彩られています。実際に滞在し体感することで、人々の手が年月をかけて培った物の質とその豊かさを感じていただけます。
DIRECTOR’S STATEMENT
細尾 真孝
メディアとしての布
細尾は、1688年から西陣の織屋として家業を営んできましたが、もう一つの顔として、百年前、曽祖父の代から始めた問屋業があります。問屋業としては、北海道から沖縄まで最高峰の染織作家の染織を扱い、日本中に紹介していくということを行ってきました。
私自身、海外へ西陣織を紹介する業務を中心にしてきましたが、日本の他の染織産地のことを何も知らないことに気がつき、とにかく一度行ってみようと思い、全国の様々な産地を訪れるようになりました。実際に訪れるとそれぞれの織物が、異なる歴史、風土、そして人と密接に関わっているメディアなのだということに気づかされました。
染織は、時の権力や社会構造とも密接に繋がっています。たとえば西陣織や上布と呼ばれる布は、支配階級からの庇護を受けたり、献上することを前提とした歴史の中で、より洗練され、美を追究していく過程がありました。
ところが一方で、こぎん刺などは、最初は自分たちが寒さをしのぐために麻布に糸を刺していったのが、誰からの圧力も受けないのに、手間をかけ、美を追求していった。そこには人間の美を求める本質的があります。僕にとって、染織産地を周ることは「人とは何か?」という発見につながるような気がしています。
元々は美を作るために人はテクノロジーを進化させてきたのではないか
テクノロジーとは人間の身体の機能を延長させたもので、機械の機、織機の機からきているように、織物を作るための、美しいもの作るための道具がテクノロジーの原点だと思います。
今の時代はテクノロジーが先にあり、美とテクノロジーは全く違うところにありますが、人は美を作るためにテクノロジーを進化させてきたのではないかと考えています。
世の中が、布を通して「人間とは何か」「布とは何か」というような本質的な問いの答えを探ろうとしている機運が高まっているように思うんです。なぜ人はこんなに大変な思いをして時間をかけて布を織ってきたんだろうかという本質的な問いを取り戻すタイミングにきていると思います。
これから人が宇宙旅行に行ったり、AIが出てきたり、人間の在り方そのものが問われる時代になっているからこそ、人間の本質を取り戻すための一つの媒介として、布を題材として扱っていきたいと考えています。
次回に続く・・・
想い出
幽玄の色と香りを織りなす人・・・山口安次郎氏をたずねて
昭和61年初夏、小生は京都をさらに西へと向かい、自然の空気の中で最高級の能装束を専門に織り続ける山口安次郎氏を訪ね、美しい名品の数々を拝見するとともに、氏の織物に対する愛情やその味わいなどについてもお聞きしました。(イギリスのチャールズ皇太子ご夫妻に京都市内で西陣織の実演をご案内された数か月前の事でした。)
半日かけて外が暗くなるまでお付き合いいただき、この時とばかり矢継ぎ早に質問したことを覚えています。山口氏はお疲れのご様子もなく、楽しそうに孫にでも接するかのように?後でよくよく考えてみると小生があまりにも無知だったので、きっと気の毒に思い、西陣織の授業をしていただいたのだと気が付いた次第です。
さらに、あろうことか図々しくも西陣織の実演までして頂き、帰りにはお土産に色々な織地を頂いて大変に興奮、恐縮してしまったのが忘れられません。
様々な質問をした後で、氏の創作のヒントを知ることが出来ましたので、ご披露したいと思います。
「あの美しい能装束の模様は何からイメージを得て生まれてくるのですか?」
すると、意外にもこんなお答えが返ってきたのです。
「伝統的な模様以外は、絵をよく見ます。私の場合、やはり日本画が九割で洋画が一割と言ったところでしょうか。同じ牡丹を見るにしても、自然の物を参考にするより、本当にいい画家の描いたものを見たほうがいい。特に東山魁夷。線一本にしても余分なものが無く、見ごたえのある実にたっぷりとした色気のある線で描かれている。いい絵を見て参考にしています。」
丁度、時間となりましたので本日はこの辺りにて・・・合掌
鎹八咫烏 記
伊勢「斎宮」明和町観光大使
石川県 いしかわ観光特使
協力(敬称略)
株式会社細尾 〒604-8173 京都市中京区両替町三条上ル TEL 075-221-0028
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ZIPANG-2 TOKIO 2020「アイヌ伝統料理『ハレの日』の料理を紹介します。」
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ZIPANG-2 TOKIO 2020 ~ドミナンスで景観再生(3)~日本の色彩環境の未来を位置付ける【寄稿文】林 英光
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ZIPANG TOKIO 2020「千年先へ、語り継ぐために。ものづくりの技と知恵を結集!名古屋城本丸御殿完成 6月8日(金)~ 公開」
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