〜国際間における文明・文化のキャッチボール〜
その心は・・・認め合う各国で異なる幸せの交流と心の平和である。
今世界を席巻している最小の生命体コロナウィルスによる、物質文明から心の文化へ、つまり…経済、機能、技術の重視から各国の伝統的文化、歴史、自然、生活環境が培った本来の「美」への転換を促すサインである。
美しき諸相には何故かある種の「懐かしさ」が見え隠れする。
それは人類の誰もが自ずと抱える、人知れず持っている内なる心の奥底からの叫び、過去現在未来に通底する「美しきもの」、いずれ全てが辿る彼岸「色即是空」の懐かしさであろうか。
最高にシンプルで粋な白黒グレーのモノクロームによる素材色の構成は究極の美として帰結する。駒ヶ根の養命酒造の展示館とカフェ。
諏訪のくらすわ店も外観は白黒モダンだが内部は明るくカラフルで商品も美しく見やすい。古き伝統を活かし内部空間をカラフルに楽しくする傾向は、今後の我が国の未来環境のあり方の一つであろう。
前回「ZIPANG-5 TOKIO 2020」で紹介されたイタリアンモダンと浮世絵のコラボは、大いなる異国文化の対比であるが、シンプルかつドライな現代イタリアの「西洋」の物質的構成空間と、繊細な自然と人の調和と明快で力強い意志を秘めた「和」の表現は、その乖離した根元にも共通点さえ感じられ、根源にも弛まざる美の探求において共通項さえ感じられ、こうした異文化のキャッチボールは別の役割を考えさせられるコラボ実験でもある。
この空間に あなたなら…
好きな浮世絵をどうセッティングしますか?
日本建築に溶け込んだイタリア B&B社のリビング空間
葛飾北斎「両国橋夕陽見」※¹
葛飾北斎「赤富士」※²
葛飾北斎「神奈川沖浪裏」※³
❊1.2.3..の浮世絵 カバー画像「葛飾北斎 富嶽三十六景」(鎹八咫烏 collectionより)
優れた異文化は全く異なる感覚であっても、優れたもの同士は時として活きいきとした新たなエネルギーの調和をもたらす。それは相互の根底に「真・善・美」を共有する通奏低音が存在するからである。
「違和感が創る魅力的事例」
唐招提寺金堂の素晴らしいアジア的建築は、古代ギリシャのエンタシスがペルシャ、インド、中国を経て、実に穏やかな鑑真和尚の心として伝わり和の文化として花開いた。筆者が学生の時3週間の古美術研究旅行で得た未だ新鮮な感動である。
五稜郭は幕府がロシア、アメリカの脅威を意識し、西欧オランダの城と日本の築城術の結晶としての美しいユニークさがある。
ガウディ設計のカサミラ屋上からサグラダファミリアとバルセロナの街並みを望む
和洋折衷の美、日本の学校建築の原点でもある国宝・旧開智学校は気品のある白黒グレーの建物。インテリアの瀟洒なデザインの工夫も粋である。
国宝・旧開智学校
正面車寄ファサードには立川流原田蒼渓の彫刻が…雲の下には龍が彫ってある。
明治初頭の教育ツール「恩物」の多くの展示が設計の思想を思わせる
ルーブル美術館の広場のガラスのピラミッド。バルセロナの古い街並とガウディの仕事と真反対のカプセルのようなバグア−タワーなどなど。思いつく心に残る例は数多くあるが、以前紹介した廃校の活用デザインや、筆者の好きな松本の国宝・旧開智学校の外構と内部のデザインも、なんとも粋なドミナンスを発する日本の大工棟梁の感性であろうか。何れにしても景観は地域や国の民度を表し、金銭では表せない幸せのバロメーターである。
日頃のZIPANG TOKIO 2020の多彩な取り組みから、我が国の景観の素晴らしさと同時に、基本的インフラとしての国土全体に対する意識が高まり、官民での取り組みが一層展開されることが望まれる。
ご存知の通り景観の問題は、我が国の評価は先進国どころか世界の下位にある、その原因は戦後の無造作な自然環境の破壊と景観に対する国の意識の低さである。
送電線、電柱、看板は基本的景観を阻害し、街並みの99%は無秩序の極みであり、とても経済大国とは信じられない状態に気づき、国を挙げて取り組めば新たな産業も就労環境も、子供たちばかりでなく国民の精神的安定、目に余る数々の犯罪や、暴力、少子高齢、引きこもり、貧困児童、子供を含む自殺率、数件に一軒の空家、田畑山林の荒廃、失業、孤立社会など、国民の精神的インフラの改善は、国家として総合的視点での取り組みを政治問題の第一に据えて取り組めば、当面の目先の問題とリンクし少なくとも希望の持てる生きがいのある社会になるだろう。
景観は視覚から入る人間活動の大半を占める大切な要素である。人口8000万人の戦争のない国、景観を大事にしてきた江戸時代に戻るのならば、質素倹約の心の通う国になれば、たとえ埴生の宿でも多くの国民は幸せを実感し暮らせるだろう。
「文化のDNA:memeミーム」
人は国や民族、集団の、数百年、数千年の間に、風土と伝統に培われた最も基本になる文化のDNA:memeミームを持っている。工夫に工夫を重ね、高め洗練させてきた文化は人類共通の宝であり、心身に染み付いた人の存在そのものである。
それは突然ある時、他の文化集団の培ったノウハウに触れ、はたと閃き、自己の脳のシナプスの信号が繋がり、目を開かせ、これだ、と納得し取り入れ満足し、技術を質を向上させてきた。そのように物事を見るとそれは生き物の進化と同様、明日の幸せと久遠の未来、人類の喜び幸せの至高の瞬間であろうと思う。
ここでは筆者のような職業に限らず、あらゆる分野の人間活動で生じるある種の停滞・マンネリからの脱出、あるいは言語、思想、あらゆる技術、日常の手作業、行動に取り入れ進化してきた、人間の果てしない未来への好奇心である。
「文化の交流で生まれた良き物事には、どこか懐かしさがある」
風景は人の心を育む 麗しき五島の海(長崎県五島)
旧五輪教会は、実に懐かしい和洋折衷の優しさの風情がある。五島列島の大切に守られて来た多くの教会は、地域景観とも調和し、その内部空間はさらに清らかで美しい。
これは隠れた大切な文化の評価基準であると考えている。
新しき良きデザインは、今にとどまる即物的な感覚だけではなく、同時に過去から現在未来へつながる感懐の情の表現がある。
それこそmeme文化のDNAであり、特に日本人の場合エキゾチックという言葉で説明できる、何故か遠い西の文化の匂いを好む傾向がある。近いものは古きものでも和の領分に吸収され自分たちの文化とあまり違和感がなく思い、西の果て洋との融和が未来を創る懐かしさに錯覚する。
文学や政治その他多くのものに、偉人の業績にもそれを感じる。世界に知られる宮沢賢治、新渡戸稲造など多くの偉人もいた。美術音楽芸能食文化等など、伝統を支える良きものにはその意識が共感を呼ぶのであろう。
遠いDNAに人間の交流のロマンを感じるのは生物的な婚姻の場合と同様に理由が共通するように思う。自分たちの文化と大いに異なるものへの憧れである。
ZIPANG TOKIO 2020の絶え間ない文化の紹介は、その一環につながる活動であり、受け取る多くの視聴者の力になると思っている。
「日本の景観の基本 白黒グレー自然素材色」
白黒グレー自然素材色が日本の景観づくりの基本であると言われて久しいが、未だ理解できない国や省庁、国民の多くの人たちが多い。これだけでも美しい日本の環境の基本は整うのだが、明治と敗戦後の伝統文化の心の喪失は大きい。
人工物が自然景観を阻害しない。自然に敬意を持って調和し、むしろ引き立てるべきであること。他国の美しい風景は長い間の工夫と議論の結果であり、表層で見ず、風土伝統民族の総合であるとしてみよう。
さらに成熟衰退に向かう我が国にとって必要な一つは、自己の損得ではない人間性を育てることが大きな未来への課題である。2500年前に出尽くした人類の思想、宗教と大自然の摂理という神の存在を寛容な心で見直し、その上で各自の思いを現すものに拘れば良いと思う。
寺 院
中庭を囲む長い回廊の自然素材色と窓の白黒明暗の見事な連続性の美 国宝・高岡山瑞龍寺境内
住 宅
道路環境とも調和する堂々とした伝統の民家。大垣市大橋家住宅
店 舗
白黒グレー自然素材色の優れた形は金銀原色と調和する 安曇野 かりんとうの蔵久
街並み
伊勢河崎の古い街並みは、周りのビルの無造作な陸屋根の形に配慮し電柱をやめれば、美しくも大げさに言えば北欧のベルゲンのように、日本の白黒グレー自然素材色の水辺の名所になるだろう。
消えて行く美しい伝統
例:愛知県蒲郡市の街並み
消え行くかけがえのない美しい伝統は、全国で見かける。現代素材に代替えしても形と色彩だけでも守ろう。屋根の傾斜は地域の共有する大切な景観の資産であり共有して守る。
日本の景観のガンである電柱・看板等こそ国が責任をもって視界から除く長期ビジョンを。それほど豊かでもない海外の都市が出来ることが、出来ないやらない日本人の意識変革を、未来の日本人の心のために。
振り返ると、渡辺京二の名著「逝きし世の面影」の日本をどう新たに復活するか、すべきかに尽きる。200年に及ぶ欧米の真似はもう大概にし、自然の風土や洗練された誇れる自国の伝統に基づき、日本人の多くのアジア系の容姿に調和する文明を見直す時、日本人も、本来の美しい日本の景観も世界から見直される。
ZIPANG TOKIO 2020の分け隔てなく屈託のない美しきもの、温故知新の取り組みからも、様々な各自の選択から何かしら生れてくると思っている。 日常と祭りやイベントのハレとケのメリハリや、居住と商環境、生産環境の違いとメリハリと調和、命に関わる交通や安全の色彩表示の視認を妨げない。その上で地域のランドマークや、工夫のある色使いは天才と大衆知識人とで議論を起こせば良い結果を生むだろう。
僅かこれだけのことに多くの日本人が理解がないことは、人間社会の基本である自然への慈しみ、自利と利他、小我と大我、個人と社会の意味を理解できないことに原因がある。
太平洋戦争で焼け野原となった名古屋市街(昭和20年) 。広小路通りの広小路本町交差点。中央のビルが大和生命ビル〔旧徴兵館〕。名古屋のシンボル名古屋城も焼失した。
戦災で消失した名古屋城は、城郭の国宝第一号であり、事前に爆撃を察知し、前もって膨大な襖絵は避難してあり、名古屋城本丸御殿の400年前の豪華絢爛な姿は今再び甦った。
「よみがえれ日本の美意識」
城郭として「国宝第一号」に指定された 「名古屋城本丸御殿」。
奇跡の木造建築で400年前にタイムスリップ ‼
10年に及ぶ復元を終え、名古屋城本丸御殿公開中!
本丸御殿から望む名古屋城天守閣(木造建築 建替え予定)
ZIPANG TOKIO 2020 編集局「特別資料」で、名古屋城本丸御殿内部を隈なく観る !!
ZIPANG TOKIO 2020「千年先へ、語り継ぐために。ものづくりの技と知恵を結集!名古屋城本丸御殿完成 6月8日(金)~ 公開」欄間は、富山県南砺市井波の井波彫りです。
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/4312637/
ZIPANG-2 TOKIO 2020~『日本遺産』井波彫刻とは~「木槌の音が響き、木々の薫りが漂うまち 井波(壱)」
https://tokyo2020-2.themedia.jp/posts/5076087
ZIPANG-2 TOKIO 2020 世界に誇る木彫ミュージアム 「木彫り彫刻の総本山『井波彫刻総合会館』のご案内(弐)」
https://tokyo2020-2.themedia.jp/posts/5080607/
ZIPANG-2 TOKIO 2020 井波彫刻発祥『井波別院瑞泉寺』 勅使門『獅子の子落とし』、大門を支える『龍』の井波彫刻(最終話)
https://tokyo2020-2.themedia.jp/posts/5085411
改めて新コロナの災禍を機に、
今一度明治以降の富国強兵と海外侵攻が、欧米とのキャッチボールから生じた反省すべき例であることに気づき、異文化との正しい意味のあるキャッチボールを進めたいと思うのである。
振り返ればわが国の都市を灰塵にし、さらに原爆投下を受け、大勢の国民とアジアの人々を戦火に巻き込み悲惨な結果を招いたことを忘れず、正しい新たな未来のあり方を模索したい。
敗戦国に都市計画などいらんとGHQに一蹴された後遺症が、経済発展を遂げたと自負するが、現状の世界に冠たる大混乱の文化的スラム景観である。それを解り易い色彩環境の基本から取り組み、国土、都市、地域、日本人の美しい環境を取り戻したい。環境デザイナーとして筆者の念願である。
繰り返すと「風景の懐かしさ そこには必ず慈しみの心がある」。 その文化のミームを柱に取り組み、未来に幸せを贈りたい。
「キャッチボールで辿り着いた日本の幸せの形」
古き良き伝統を大景観に活かし自然と調和し、暮らしの機能的表示を見やすく安心安全の環境とするため、今後の日本の国土環境、インフラ、都市、個々の建築など全て江戸期のように、落ち着いた活気と賑わいのある大人の成熟未来環境に向けて進めたい。
すでに先見的な公共建築、企業、大型店舗、例えば車の販売店なども黒のモノトーンに、そして意識の高い人々もその方向にある。
一方、個々の内部空間や着衣や化粧をカラフルに楽しくする傾向は、今後もより自由に展開されるだろう。
次回へ続く・・・
【寄稿文】林 英光
環境ディレクター
愛知県立芸術大学名誉教授
協力(順不同・敬称略)
B&B Italia Tokyo 東京都港区北青山2-5-8 青山OM-SQUARE 1F 電話番号03-3401-3837
五稜郭タワー株式会社 〒040-0001 北海道函館市五稜郭町43-9 TEL 0138-51-4785
日本インテリア総合研究所
〒450-0002 愛知県名古屋市中村区名駅3丁目13−28 名駅セブンスタービル
電話: 052-585-0130
CreaLuce(クレアルーチェ)
〒460-0008 愛知県名古屋市中区栄2丁目4−11 チサンマンション広小路 802
TEL 052-585-0136
名古屋市観光文化交流局名古屋城総合事務所 名古屋市中区本丸1-1電話:052-231-1700
名古屋市役所
〒460-8508 愛知県名古屋市中区三の丸三丁目1番1号 電話番号:052-961-1111(代表)
※画像並びに図表等は著作権の問題から、ダウンロード等は必ず許可を必要と致します。
発行元責任者 鎹八咫烏(ZIPANG TOKIO 2020 編集局)
上記の記事関連情報です。ご参照ください!
ZIPANG-2 TOKIO 2020
「函館市 西洋建築大博覧会(Webサイト)特別編その2【五稜郭】」
https://tokyo2020-2.themedia.jp/posts/4751663/
ZIPANG TOKIO 2020
「ニッポンたからものプロジェクト -日本遺産 国宝 瑞龍寺×Live Art-」
https://tokyo2020-summer.themedia.jp/posts/2884905/
現在、1350件余の記事掲載。
林 英光氏の寄稿文も下記のサイトからご覧いただけます。
250件ほどのリンク記事をご覧いただけます。
ZIPANG-4 TOKIO 2020 (VOL-4)
https://tokyo2020-4.themedia.jp/
235件ほどのリンク記事をご覧いただけます。
ZIPANG-3 TOKIO 2020 (VOL-3)
https://tokyo2020-3.themedia.jp/
200件ほどのリンク記事をご覧いただけます。
ZIPANG-2 TOKIO 2020 (VOL-2)
https://tokyo2020-2.themedia.jp/
615件ほどのリンク記事をご覧いただけます。
ZIPANG TOKIO 2020 (VOL-1)
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