ZIPANG-5 TOKIO 2020 色彩デザイン実践講座 事例1 JR岐阜駅前再開発 森羅万象との融和【寄稿文】林 英光 

私たち日本人は色彩を軽ろんじていませんか?

服装も家も街並みも都市も国土も一つの景色です。その基本を少し理解すると全てが融和し、調和が始まります。


私たち日本人は色彩を選択する時、他のものごとより理由も感性も十分な検討もない侭、命に別状はないとして決めています。


しかし戦国時代の武将たちは、命をかけて城ばかりではなく、領地から服装、香りまでトータルデザインに尽くしました。


その根底には「恥と誇り」があったのです。それが日本の穏やかな文化の基本です。またその手本は、天地空海、山川草木、生きとし生きるものの姿や色彩など、全て自然の中にあります。それが人間界の風土に育まれた伝統文化です。


今は伝統的な和の優れた文化よりも、外国の派手な文化に目が行きがちですが、それらは彼らに似合う文化であって、そこに住む日本人が美しく見えないばかりか、外国人から見ても日本人は世界一洋服の似合わない人々と言われる所以です。


その都市環境は電柱と看板とバラバラな建築様式と形と色彩の混沌であり、スラムのようだと言われます。それには視覚上の色彩も大きく影響します。さらにわが国の混沌とした環境の改善は大事な未来の子供達や次世代に不調和な環境が影響し、いじめや犯罪など心の問題にも関わります。環境は人をつくると言います。


そこで都市環境と様々なデザインの、発想から実施に至るまで関わった筆者の多数のプロジェクトの経験から、色彩に取り組む実務のトータルデザインについてご紹介しましょう。一例としてJR岐阜駅前地区再開発での筆者が手掛けた色彩デザインの手順が僅かでもご参考になれば幸いです。


伝統文化に勝るものなし。
会場右奥にある青の武者姿を青の服を着た子供たちが見ているのは、偶然の調和なのか?
 

それにしても伝統の美は、何故かこのような粗雑なイベント環境にあっても、現代デザイン空間にあっても、何故子供達がイベント狙いよりも後ろを向いてまで熱狂するのだろうか?それは見事に色も形も佇まいが環境調和の主役になっているからでしょう。


ここに日本の伝統美の真髄の凄さがあり、現代はそれに匹敵する真剣な取り組みが、或いは能力が劣化している自覚が欠けているからでは?それは、何時も何処でも必要なのです。 


先ずはわが国の大多数の混沌とした都市の状況の再開発事例から、その基本を総合的な色彩分析に迫ります。今回はJR岐阜駅前の経過事例を、次には色彩をトータルデザインのステップとした異なる様々な事例の概略を提示します。


日本の混沌とした実態の都市景観の改善に、伝統と有機的造形で取り組んだ JR岐阜駅前再開発 


古くは東アジアに伝わる理想的で総合的都市づくりは、現在でも私たちの暮らしのあらゆる場面で色彩をも含む「四神相応」のシステムがあります。


今回ご紹介するJR岐阜駅前再開発のプロジェクトにも、実際に空間全体のトータルデザインに取り組むベースとしてそれを活用しています。


地上の幸せな環境づくりの、東アジア5千年の伝統である四神相応はその一つで、大地の風土と四季の色彩の調和を表しています。奈良・京都、そして徳川家康の都市デザインの思想にも今でも名古屋・東京に生きています。

温故知新の感性で未来を 地上の幸せな環境づくりの四神相応を、ここでも敷地全体の東西南北の位置に「東の青龍の青」「西の白虎の白」「南の朱雀の朱赤」「北の玄武の黒」を控えめに活かしています。これは私のデザイン全般に対する基本となる過去と現代と未来をつなぐ隠れた次元の思想です。 


混沌とした戦後の我が国は、空襲での焼け野原と戦勝国の統治により、それまでの習慣や伝統文化、古き良きものを否定されたこともありました。


その後大きく変化を余儀なくされて現在に至り、その結果はやがて1世紀になろうとするが、私たち日本人はあるべき基本になる方向性を未だ見いだせず、少子高齢、産業、暮らし環境全体が衰退成熟に向かっています。


その中で温故知新により、誇りと自信を持って新たな未来をつくろうとする契機に、最も簡単と思われる視覚の環境色彩に取り組む事は、行き詰まる産業革命以来の物質文明を感性と心から、新たな方向と希望を見出せる手段だと思います。


四神相応を基に構成し生き生きとした有機的イメージの広場


この再開発プロジェクトの特徴は騒々しい交通の大拠点を、歓迎の両腕を差し出したスカイウオークデッキと杜の駅が主なデザインテーマです。それには岐阜の風土伝統から始まる人の心に寄り添うモダン伝統デザインであるべきと、当初から心がて全体の計画に取り組んだのです。


古寺の堂々とした太き柱のイメージと、南に位置する構造体の四神相応の朱赤は、岐阜特産の蛇の目傘の形に謎えて屋根の構造まで広がります。 


敗戦後日本人は、古来の優れた伝統のセンスを失い、洋風とアメリカナイズで自分たちの容姿体格動作振る舞いや、風土とは似合わない文化に国中が馴染もうと、根拠のない知識で、「色なんか簡単に決めれば良い」とか、「人それぞれ感性が異なるのだから自由だろう」として、プロの設計者も皆、安易に色チップで決めて済まして来ました。 


その結果は色彩ばかりでなく、建築物、インテリア、調度室礼、ファッション、道路環境、街並みも、今の日本国民は世界で最も混濁した珍しいくらいの環境に甘んじ暮らしているのです。


これではどんなにファッションや建物を個々バラバラに頑張っても、基本となる大切な環境を共有していなければ、いつまで経っても日本人は美しくは見えません。


そこで色彩に関しても風土と伝統の上に自分自身を置いて考え、全体の調和を目的としなければと考えたのが、視覚に入る色彩を大きさ遠近大小上下左右に見て記載しうる方法として、LCシステム※をくらしの色彩研究会で考案しました。(学会に掲載済み)


LCシステムとは、全体景観の色彩を客観的に把握する

LC景観色彩ガイドシステム …

簡単に示すと次のように、視覚に入る風景、あるいは写真画像から、 H / L : 立面の色彩。 高さ、低さ、距離。 W / N : 色面の 広さ、狭さ。 上下左右軸の交点が見る人の位置です。 左上のN はその時の天候空の色や植物の自然の色。左のV は既存の景観色彩。その下 H は道路面、床面。 I : 右上は新たに使いたい色。その下 S : は安全機能色です。

LCカラーチャート

LCシステム活用説明 参考例 


活用説明図 参考例


視観測色か写真家から色彩の大まかな空間を配置する。ただこの形でなくても下図のように、各自の方法で必要に応じて色チップでも良い。そうすると目の前の環境の色彩の関係が分かり、どうしたいかも伝わります。


ただし色彩の扱いは、個人の自由になるのは他の人の目に触れない、自分の家の中や個室ではどんなに品がなかろうが自由勝手であるが、一度そこから出た空間は自分の家であろうが公共的社会空間に、相応しい色彩環境であるべきとなる。


色サンプル貼り付けによるカラーチャート 参考例


色彩を整理しこれで色彩全容がわかる 参考例


日本の現在の都市環境は少々雑で固いが、猥雑性が魅力であるし、色彩もそれぞれ混在だが、よく見れば、色彩のシステムを越えた混乱それは、人間日本人が、生きとし生けるもの、森羅万象との融合への過程だと思いましょう。


現代的素材であっても、直線や四角を丸くおさめることは自然に近づく有機的色彩デザインになる。それと部分の丁寧な作りと人の接する手すりやデッキの、アルミやステンレスの丸みが全体の優しさになる。


デッキからビオトープロータリーを見る


杜の駅の基本色は墨色で、アルミ素材色と床のグレーのスカイデッキは、安全機能色も見やすい快適な歩行視覚空間であり、素材の金属もガラスも優しいデザインになる大切な色彩要素である。


デッキ上の歩行空間


デッキから見るビオトープ空間の一部


ビオトープは四季の色変化で市民に優しい空間に、次第に広場全体は樹々に覆われて四季の杜の駅に変化した


美濃の植性のビオトープの水辺

景観の視感測色では距離に比例し色彩の見えは変化することを考慮すること。


岐阜市全域の距離によるLC色彩調査表 岐阜の景観デザイン要素と色彩。


大切と思う要素を抽出した、プロジェクトのデザインモチーフと色彩 LCシステムに記入


景観色彩全てをLCシートに記入した参考例


再開発地域商業地区の建物の色彩提案

上から屋根、壁面、店舗ネオン、店舗など1〜2階ファサード伝統推奨色、路面周辺、禁止色。これで伝統と現代に岐阜らしい賑わいの街になることを想定した色彩案である。


JR駅前再開発地区建物の色彩提案


中央のイベント広場夜景

岐阜市民に愛されている暖かいイメージの空間である。


中央のイベント広場は、織田信長が孫に与えた漆の豪華な硯箱にあったマークをモチーフにしたが、教育委員会から、これはイエズス会のシンボルマークであり、一宗教に拘るのはどうかと言う意見を尊重し変更。真ん中を噴水と照明に、夏季は子供達の水遊びに、夜間は照明で幻想的な空間になる。


イエズス会のシンボルと服装と仏教弾圧などを推測するに、信長はキリシタンだったかも知れない?

 

広場から取り巻くスカイウオークデッキとJR駅側の夜景


広場の色彩変化する照明


バス待ち空間 JR駅前再開発では 吐き捨てガムが目立たないように産廃汚泥から可能な最も濃いグレーのタイルを製造し採用し、環境が整うとガムの吐き捨ても減った。照明で思ったよりも、より床面が明るく見え、サインも見やすく落ち着いた環境になった。


高齢者に誘導サインも見やすく落ち着いた金属とガラスのバス待ちロータリー空間となった。


日本人は戦後の暗い環境からの脱出時に、明るく白っぽい空間を好んできたが、現在の落ち着きのない喧騒の環境には、日本人の心が落ち着く本来の空間が公共環境にも必要です。竣工当初暗いと批判するマスコミもあったが、今では馴染み、目指すべき公共空間の一例になったと思います。



まとめ

この再開発事業は、混濁したわが国の都市景観に、風土と伝統的要素と地場産業などを取り入れ、有機的で機能的な優しい大型交通拠点を目指した事例です。


絶えず移りゆく現代社会にあって、解答はそれぞれであるが、地権者の言い分、財源その他諸々の条件で風土と伝統を活かす総合的判断と、最新の感性が、デザイン・色彩においても大きな間違いを犯さない最低限の調和の方法で、その上に次世代を視野に新たな取り組みをすることです。


次回はカラフルな色彩デザインの基本から日本の未来を考える 事例―2



【寄稿文】林 英光

環境ディレクター
愛知県立芸術大学名誉教授



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発行元責任者 鎹八咫烏(ZIPANG TOKIO 2020 編集局)



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2020年東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。この機会に、世界の人々にあまり知られていない日本の精神文化と国土の美しさについて再発見へのお手伝いができればと思います。 風土、四季折々の自然、衣食住文化の美、神社仏閣、祭礼、伝統芸能、風習、匠の技の美、世界遺産、日本遺産、国宝等サイトを通じて平和な国、不思議な国、ZIPANG 日本への関心がより深かまるならば、私が密かに望むところです。

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