ZIPANG-5 TOKIO 2020  溝口一三を偲ぶ ー 口伝 ー 誰がしたかは問題ではなく、 次に繋ぎゆく者の道すがらにある。

百草の庭 居間から庭(ニハ)を眺める・・・


はじめに

初めて溝口一三氏にお目に掛かったのは、1989年(平成元年)7月15日から11月26日までの4か月間だった。愛知県名古屋市内の3会場で開催される世界デザイン博覧会(3会場の景観演出計画担当 林 英光氏)の開催前にスコットランドのグラスゴーで行われた、世界デザイン会議への参加をお薦めした時のことである。

二人ともまだ若かったので、意気投合してご一緒する予定だったが、溝口氏は、直前にランドスケープデザインの重要な仕事が決まった為に不可能となり、今でも瞼を閉じるとその時の残念そうな顔が目に浮かんでくる。


その後も時々お目に掛かる機会があり、情報交換などし合う仲となった。
何時か必ず彼の作品紹介をしたいと約束したものの、お互い忙しさにかまけて(小生だけは暇を持て余していたのだが・・・)いつしか10年が経ってしまった。 

こんな期に及んで、久しぶりに連絡したところ、はじめて溝口氏の訃報を知り、驚いた訳で、遅まきながら生前の約束を果たすべく、チーフデザイナー溝口陽子氏と計画を練り始めてから更に1年が過ぎてしまった。 

こんな事では、気の長い溝口一三氏も、きっとあの世のお釈迦様の庭(ニハ)を造りながら怒り心頭…では?とやたら気になり始めたのだった。

そこで、昨日の記事に続く氏の(ニハ) の概念について、更に詳しく知りたいという想いが募り、それを引き継いだお二人の内、ご長女溝口陽子氏にその理念、及び作品群のご紹介をさせて頂くこととなったのである。(合掌)



溝口一三「遺訓」

「自然(じねん)」といふはもとよりしからしむるといふことばなり。ー 親鸞上人

溝口一三氏は大変、宗教的な方で、自然(ジネン)と呼ぶ見方から(ニハ)に関しても深い悟りがあった様に思える。

自ら然らしむカタチを求め、自然を分母にした庭作り。 偶然の積み重ねから生まれてきたものを受け入れ、それらの変化を楽しむという「実生の美」や「円環」する時間の中での暮らしをテーマに庭作りに取り組む。

 


おのずから

かつて、人は自然からの恵みを得る時、感謝の念をあらわしてきた。その気持ちが信仰のはじまりだ。

この湧水の地に信仰の場が生まれた所以は、水であろう。
水の水平軸の世界と、精神的な垂直軸の交わるところが風景の原点かもしれない。

この古刹の新たな改修にあたり、 素朴な水面と、いにしえへの想いで静まり返る気配の創出がテーマとなり、 水の世界をどこまで拡げられるかがポイントとなった。

水に向き合う場をつくるために、現代人が作為的に足してしまったものを除した。
自己の無限小に臨み、自己を残さないことを心掛け、未生の施工法で、無有好醜の世界を目指す。

日々水を眺め、樹々と語り続け、作為的に流していた湧水を、自然の流れにし、水位を戻し、水と心がかよう気配の場にする。

威圧のない、はかりごとのない、清浄な空気が漂い始める。
誰がしたかは問題ではなく、 次に繋いでゆく道すがらなのである。

2015年制作



風水の杜

この公園は、霊峰白山を望む自然軸線上の降神の舞台を中心に 大地に円弧を描いた巨石石組と北国街道の都市軸上に芝生広場を創出し 二つの軸線と海からの風の軸線との風の軸線との交点に 水に浮かぶ薪能舞台のある風水の杜を創出した。

風土に根差したその土地が持つ力を大切にしながら 生得の美意識を新しい形で蘇らせ、真に豊かな憩いの場となるように制作した。

1993年制作



白浜の庭

作庭した庭を見て依頼下さった骨董商の施主 のどかな風景に囲まれた前庭を広くとった家。
おのずから長いアプローチを活かした構成でにわを創っていった。

景観木に欅、白芽杉、紅葉を、遮蔽林にアラカシの高垣、土塁に山堀のアブラチャンやサンシュを配し、ドウダンやビョウヤナギの垣根を結界とした。コレクションの古井戸を組み、銅板の照明器具もデザインして時を経て渋みを楽しめる庭を心掛けた。

好きなものや、こだわりを一つ一つ紡いでいくことが、今の世では一番贅沢なことかもしれない。作庭して30年余り、一度も貼り替えることなくきれいに維持されている芝生を思うと、住まわれる家人の想いの豊かさが伝わってくる。

1987年制作



潮騒

庭の構想を始める前に、まずその場の持っているエネルギーを感じることを大切にしているが、初めてこの場に立った時に、高台の向こうに広がる三河湾の潮の流れを感じた。

敷地と水との関わり方を模索するうち、潮の満ち引きは、自分の身体のなかを流れる体液と同じ波長で繰り返しているのに気づいた。力強く、時には静かに繰りかえす自然の営みのリズムと、人の日々の生活の中での快適なリズムが調和した空間を、いかに創出するかがこの庭のテーマとなった。

1986年制作



山の手の庭

茶の湯をたしなむお施主。
ゾーニング計画から携わり、庭を中心に窓の切り取り方、玄関の位置、向きまで建築家、お施主と何度も協議し構成した。

柳ゆれる坂下の門をくぐると、家の壁沿いに黒溶岩敷きのアプローチが続く。北に位置する玄関前には、既存の柿木がありその足元に蹲。15枚の溶岩の小端立ての延段が躙口へ向かう結界となる。

躙口ではなく玄関を入ると、琉球畳の床の延長に御影石の濡縁、その向こうの南の庭に、古材を使った石の待合。南の庭の蹲は馬酔木の葉先からの水滴が筧となる。

伝統とは昔のセオリーや形を保守的に守っていくことではなく、過去からの形を現代というこの場で人を介在させて展開させ、次代へ精神を語り継いでいく事だと考える。

毎朝ハサミを持ち、庭に接する時間を持つお施主のこの庭は、いつお邪魔しても美しく、形にとらわれない精神性は、時間を超えて心の庭となっている。

2009年制作



松栄の庭

昭和の終わりに作ったこの庭も、当初は子供が走り回れる芝庭だった。木々の成長と共に、日陰ができ、次第に苔むす庭になっていった。

住む人の成長と共に変化していく庭、またそれらを受け入れ愉しめる施主。

作庭の際にも、もともとのお屋敷から、代々大切にしてきた木々や、先祖が好んだ景石をこの場に移植、移設し庭を構成した。

目新しいものばかりが持てはやされ、文化を育むことが難しい時代に、記憶や心を持ったものを大切にし、その時代における今の解釈で生かすこと。
先祖の心はこうして受け継がれていく。

子供たちは成長し、庭を愛でる人となった。その心こそが、この庭ではないか。

1987年制作



~ 回 想 ~

グラスゴー美術大学 マッキントッシュのデザイン 図書室の家具(左)とランプ(右)


小生、実はグラスゴーにてもう一つのお役目があった。それは、昭和60年度に日本各地で開催した「マッキントッシュ展」の折に多大なるご協力を賜った、グラスゴー美術大学学長 アンソニー・ジョーンズ氏へ主催者の社団法人国際芸術文化振興会会長 三木武夫氏から御礼の親書を預かり、お届けすることだったのである。

はて、困ったな〜軽く預かりはしたものの、当の学長への尤もらしき前口上を述べるにあたり…日本語で古語なんか使って、取り敢えず、準備したのだけれど… それが、英語にするとどうも扁平に聴こえる。

あてにしていた溝口一三氏には不参加となり、そんな訳で、助け舟にもならず、一行の飛行機内での小生、もうここは暗記しかないと決めこみ、人知れず必死であった。

当日は運を天に任せ、子供の頃から遊び場としてお世話になっていた「あったさん(熱田神宮)」の御守りを胸に、エイとばかり飛び込んだのだ・・・ところが、ふと、気付けば…日本人留学生が隣に同席していたのである。こちらが用意した英語の下がきは、簡単に直された。何だ、こんなに優しく言えるんだ…

改めて御守りの御利益に感謝・感謝 !!

人間、可笑しなもんですナ~、こうなると持ち前の図々しさがムクムクと頭を擡げてくる…アンソニー・ジョーンズ学長に直接依頼できるこの機会を逃してなる物か‼とばかりつたない英語が口をついて出る。

今、よく謂われる英語脳となっていたのである。

結果、マッキントッシュ設計によるグラスゴー美術大学全館を隈なくご案内を受けるという光栄に浴したのだ。

つい、先ほどまでの葛藤がまるで嘘のように氷解 !

リラックス → 頭の芯まで緊張を解く→赤ん坊の脳味噌→ 文法無しの英語脳。

ふーん?! 本当のリラックスとはこんな事なんだ…と、改めて感じいった次第…

日本には良い諺が沢山ありますね~
子供の頃大人たちにによく揶揄された「今鳴いた烏がもう笑う」ってとこかな
( ´艸`)・・・



鎹八咫烏 記
伊勢「斎宮」明和町観光大使
石川県 いしかわ観光特使



協力(順不同・敬称略)

株式会社ランドスキップ
ATELIER 492-8452愛知県稲沢市西溝口町郷東45-4
TOKYO BRUNCH 154-0004東京都世田谷区太子堂1-12-12
SHOWROOM 愛知県名古屋市昭和区上山町2-1-4 1F 電話 090-6491-0521


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ZIPANG-4 TOKIO 2020 (VOL-4)

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ZIPANG-5 TOKIO 2020

2020年東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。この機会に、世界の人々にあまり知られていない日本の精神文化と国土の美しさについて再発見へのお手伝いができればと思います。 風土、四季折々の自然、衣食住文化の美、神社仏閣、祭礼、伝統芸能、風習、匠の技の美、世界遺産、日本遺産、国宝等サイトを通じて平和な国、不思議な国、ZIPANG 日本への関心がより深かまるならば、私が密かに望むところです。

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