伝統を忘れた日本人の美学を、寛容に体感で理解し共有する方法が、混乱著しいわが国の未来環境の再構築には必要である。
「もののあはれ」「幽玄」「バサラ」まで日本の伝統の「共同幻想」を手がかりに、荒れ果てた我が国の風景を景観を、新たな視点で改善しよう。
それは目前にある美しき風景の、全体に支配的な雰囲気:景観の「ドミナンス」である「佇まい」と言う和の優しい言葉で表し、予測される衰退成熟社会、2050年へのサバイバルを目指し、日本の未来の姿を創りたい。
「佇まい」という和の優しく美しい言葉は、センスと平和と希望の芯の強い心の言葉である。
藤村紫朗記念館は明治初頭に山梨県から始まった藤村式インク壺様式。この志を感じる佇まいの学校建築は様々な建築にも広まった。(甲府市)
記念館の側面も清楚で現代の環境にも調和し、見事に景観の主役を演じる佇まいがある。
優しい佇まいのたてものは美しく、今でも地元の資料館として周囲の日常の暮らしに調和する、
(都留市)
明治初頭にはかくも美しい建物づくりがあった。それも学校建築であり、江戸期の文化的意識と教育の高さによるものである。それは上に立つ人物の思想と教養の賜物であり、また大工の頭領の伝統技術の伝承が、洋の建築を凌ぐ簡素な和と洋の佇まいを見事に表している。
明治以降の欧米への追従と、太平洋戦争の敗戦による自国文化の否定と消失に至り、今や美の判断も表層の主観による頼りないものだと多くの国民は思っているかもしれない。確かに無節操でチグハグな日常に慣れきっている日本人は、それらを調和させる手立ても知らないし、ましてや公共環境に口を挟むことさえ諦めている。これは他国では珍しい傾向である。
だが、今でも日本中の伝統的文化への意識が高い人々の地域には、建物を大切に工夫と配慮で、目の覚めるような自然と現代の調和を保っている風景に出会える。(岐阜県)
近寄って細部を見よう。そこには日常の暮らしも見える。
しかし現在の我が国の大部分の公共環境の混濁や、調和のない建物など、安易な社会のインフラやモノゴトのあり方は、次世代の心にも大きく影響を与えるので見過ごすことは良くない。
日本の奥深い大らかな美を再考することは、未来を築くために必要であり、野放図に、単なる好き嫌い綺麗美しいでは、より良い次世代環境を進めることは出来ない。この世界的な新コロナの災禍を機に改善の方向を見出したい。
そこで今までのように物事を個々に見るのではなく、国土環境全体と地域の特性を踏まえ、人や自然の表情をも総合的な美的判断に「佇まい」という和の美しい言葉を提唱したい。
美意識は、数字や機能では語り尽くせない共有幻想である。日常の暮らしの視点と全体と個と伝統文化の総合として見る景観デザインであり、色彩環境にも共通する「佇まい」を、伝統を忘れて来た日本人の感性を思い目覚めさせ、あるべき姿を共有する方法だと考えている。
複合要素での「佇まい」を実現する
これからの建築・デザイン・色彩は一人よがりの勝手は許されない。センスと高い質が必須である。景観はまず風土伝統で、与えられた敷地だけでなく半径100M~1キロが対象になる。ではなく周囲全体で、未来を見据えた景観デザインが必須である。
ここに具体例として伝統的街並みと、現代的要素を道を隔てて、互いの佇まいの関係を考慮したように思える愛知県碧南市の例を示す。醸造企業と寺と現代美術館などの新旧が白黒グレー素材色で互いに対等に語り合えている良き手本である。またいずれの内部にも落ち着いた丁寧な展示や食事空間から庭にも、伝統と現代の心が感じられる佇まいがある。
碧南市藤井辰吉現代美術館と、前にある伝統的街並みの新旧が、見る見られる景観配慮のあるとても良い佇まい。
海外ではこのような空間デザインは常識であるが、今わが国では極めて少ないのは何故か。人とあらゆる物事の調和は幸せな暮らしの基本であり民度である。電柱看板類を気にならない国民性を変え、他への慈しみの心で、ここに生きる人生のために幸せな舞台を次世代に残そう。
ものごとを部分でしか見ず評価しない現代から、過去江戸の我が国のように、全てを関係性で見て考えることは、物質文明だけから心の文明こそが幸せの日本であることへの第一歩である。
次回へ続く・・・
【寄稿文】林 英光
環境ディレクター
愛知県立芸術大学名誉教授
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